解決、そしてトラブル
†Case11:解決、そしてトラブル
ブン太は私が落ち着くまでそっと抱きしめていてくれた。
危うくブン太を殺すところだったっていうのに、つくづく優しい。
『…えっと、お騒がせしてすみませんでした』
すっかり落ち着いた私は、呆然とする他のテニス部の人達に謝った。
私が一番騒ぎを起こしてしまったからね。
「…名字さんは、丸井とどういう関係なんだい?さっきの約束って?俺達には知る権利がある。部活の仲間としてね」
固まる部員の中でいち早く口を開いたのは幸村君だった。
幸村君の疑問に答えるべく、私はゆっくりとブン太から離れる。
確かに、幸村君達には教えなければいけないかもしれない、巻き込んでしまったこともあるし。
『私の恋愛対象は幽霊なんだ。私はブン太に憑く幽霊を祓う代わりに協力してもらうという約束をしてるの。関係…はただの幼なじみですよ?』
ね、とブン太に同意を求めると、ブン太は頷いた。
「幸村君、名前のこと責めないでくれよぃ」
「責めるつもりはないさ。だって名字さんは丸井もテニス部も守ってくれたんだしね。他の皆もそう言うと思うよ」
幸村君はブン太と何やら二人きりで話すと、私のほうを見た。
びくっと小さく肩を震わした私を見て、クスリと幸村君は笑う。
「大丈夫、怒ってないよ。君は丸井のことも俺達のことも助けてくれたんだし、それに今回の件は君にとって良かったんじゃないかな?丸井を死なせたくないって気付けたんだろう?」
幸村君は優しく宥めるように語りかけてくれる。
私は悪いことをして怒られるのを怖がる子供のように、縮こまって話を聞く。
幸村君の言う通り、今までブン太が幽霊になれば私の理想通りだと思ってた。
優しいし、私のこと心配してくれるし…。
だけど、実際そんな状況になったらブン太は死んで欲しくないって思った。
私はただ黙って幸村君に頷いてみせると、幸村君はにこりと笑って頷いた。
「丸井、名字さんを送ってあげて。…ちゃんと丸井と話し合っておいで」
私は幸村君の優しさに甘えて、一足先に帰ることにした。
「可愛いね、名字さんは。何事にも一生懸命で、それこそ周りが見えないくらい」
だから幸村君が私達が去った後そんなことを言っていたなんて、私は知らなかった。
††††††††††
ブン太にはたくさん謝った。
ブン太はもう気にするな、と言ってくれて今では元通りだ。
一つ変わったことと言えば、約束を無くしたことだろうか。
あの約束はブン太に負担がかかるから、無しにした。
その代わりと言ってはなんだけど、終末の買い物に付き合ってくれることになった。
「名字さん、正式にマネージャーになってくれないかい?」
…ああ、そういえば、変わったことは一つじゃなかった。
朝、教室に行くと幸村君が私の机にいて開口一番そう言われた。
『あの、それはちょっと「もう紙は提出しちゃったし、拒否権はないよ」…え?』
拒否権ないんだったら聞くなよとは言えず…、だって幸村君の背後に真っ黒な何かが…。
初めて会ったときみたいな作った顔じゃないんだけど、その笑顔に恐怖を抱くので止めてほしい。
昨日とは違った意味で縮こまり、幸村君を見上げる。
まさに蛇に睨まれた蛙状態である。
「幸村、その辺にしときんしゃい。名字が怖がっちょるからな」
何も言えずに固まっていると、仁王君が教室に入ってきて、幸村君を止めてくれた。
「よしよし、怖かったのお…」
頭をなでなでされて、すっごい子供扱いされた気がするが、今回は仁王君に感謝してされるがままになる。
すると、消えかけていた幸村君の黒いオーラがまた出はじめて私はびくりと肩を揺らす。
「ああ、すまない。つい、ね」
ついね、じゃないよっ!!
つい口に出して叫んでしまいそうになったが言葉を飲み込んだ。
だってそんなことを口走った日には私の命はないだろうから。
昨日と今日で幸村君が大魔王様だってことは知ってるし。
「…で、引き受けてくれるかい?」
『………拒否権はないんでしょ?』
私がそう言うと、幸村君はにっこりと笑った。
絶対確信犯だよ。
ああ、でもマネージャーかあ。
絶対に目立つし、仕事面倒臭いし…やだなあ。
今は私達以外はまだ朝早いからいないけど、マネージャーなんかになれば今日の放課後にはバレることだろう。
そんなことを考えていると、仁王君があ、と声を出した。
「名字は目立つのが嫌なんじゃなかったか?マネージャーは嫌でも目立つし、目もつけられるじゃろう。そこはどうするんじゃ、幸村」
私が今考えていたことを仁王君が言ってくれた。
最近、彼は私のことをよくわかってくれる。
止めてくれと出来ればお願いしたいところだけど、幸村君を止められる人はいないだろう。
何てったって、彼は大魔王様だからだ、彼は大魔王様だからだ。(大事なことなので二回言いました)
††††††††††
「それなら心配ないよ。名字さんは基本幽霊を祓ってくれればいい。それから名字さんがマネージャーだってことは伏せておくつもりだし。まあ、もしバレても名字さんの恋愛対象が幽霊だってことはクラスメートも知ってるんだろう?丸井から聞いたよ」
いつの間にそんなこと話してたんだろう。
ブン太が昨日話したんだろうか…?
『…分かった。マネージャー業も少しは手伝うよ。あ、でも私テニスのことは全く分からないからスコアとかはつけられないよ』
「構わないよ、それで」
私が答えると、幸村君は満足そうに笑って自分の教室に帰った。
「おはよ、名前。ねえ、今幸村とすれ違ったんだけど、名前何かあったの?…ってあれ、仁王いたの。じゃあ仁王に用があったのか、残念」
幸村君が教室に帰ったと同時にあやちゃんが教室に入ってきた。
呑気におはよ、なんて挨拶をするあやちゃんを見て、私の涙腺が崩壊した。
『あやちゃー…。グスッ』
「え?どうしたの、名前?まさか変態仁王に何かされた?おいコラ、仁王。テメェ、私の可愛い名前に何したんだ」
あやちゃんは泣き出した私を抱きしめながら仁王君を睨んだ。
「俺は何もしとらんぜよ。そういう糸遊が泣かせたんじゃなか?」
「嘘つくな。私が名前を泣かせるわけないでしょ。殴られたいの?」
勘違いしながら険悪な雰囲気を出す二人に、私は慌てて訂正を入れる。
『違っ!!あの、その…テニス部のマネージャーになるのが少し怖くて』
私は先程起こった出来事を全てあやちゃんに言った。
「幸村が?うわー…。厄介なことになったね、名前。でも大丈夫よ!私が名前に手ぇ出す奴は潰…、何とかしてあげるし!」
ズイッと迫ってくるあやちゃんに、何か裏があるなと思いつつも、あまりの勢いに頷く。
「糸遊…、お前さん今物騒なこと言わんかったか?」
「何よ、変態。あんたの真ん中にぶら下がってるもの使えないようにしてやろうか?」
「お前さんのが変態じゃ。名字、糸遊の変態が移るからこっちにきんしゃい」
いらないことを言った仁王君の鳩尾にあやちゃんの蹴りが決まった。
あやちゃんに逆らうのは幸村君に逆らうのと同じくらい…いや、それ以上に怖いと思う。
「名前?何か言った?」
『な、何もっ!!』
訂正、彼女は幸村君と同じだった。
読心術使えるなんて、卑怯だよ。
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